行動動機は案外、意外
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


九月に入った途端に、のろのろした大型台風が襲った日本列島は、
半月後に再び、似たような台風の蹂躙に遭った。
列島上にあった秋雨前線を刺激したばかりじゃあなく、
いつまでも退かなかった凄まじい残暑が、
太平洋から大量の湿気を吸い上げた格好になり、
結果、無尽蔵な水源つきの豪雨という格好で、
それらの台風被害を大きくしたとも言えて。

 「15号の方は、風の被害もひどかったそうじゃないですか。」
 「そうそう。」
 「飛んで来たもので怪我をした人や、
  風に押されたり薙ぎ倒されたりして転倒した人が多かったそうですし。」
 「それと、飛行機はやむないとして、
  JRも大幅に運行を見合わせたのは、
  車体が浮き上がるかもしれない突風を恐れてのことですものね。」

帰宅困難者も大量に出かかった都心の混乱も、
微妙に波及はしなかった地域にお住まいだったお嬢様がた。
東北の方でも避難せねばならぬほどの冠水という被害は出たという話へ、
お気の毒ですわねと眉を寄せたり、
何かお力になれないかしらとのお声も上がっていて、

 「こういう時ほど、未成年という身が歯痒いですよね。」

三々五々に仲良しさんたちで固まって、
時折 身振りまで交えつつ、色々と思案してなさる他のクラスメートの皆様を。
こちらは窓辺の席に着いたまま、
頬杖などつき、ちょっぴり傍観者ぽく眺めていたのが、
皆様にはお馴染みの三人娘でありまして。
関心がないというのじゃあない。
むしろ、一旦焼き切れるほどジリジリした挙句の放心状態というところ。
彼女らだけが知る“過去”も合わせてのこと、
様々に“実際”というものを知る彼女らにしてみれば。
どんなに燃え盛る意志を持っていたとしても、
実質、自身の力で得られる何かを供すのに、
十代という身には、限界が多すぎるというのが ありありと判ってしまっておいで。
その境遇から、多少の金銭が自由に出来たとて、
一時的な援助では焼け石に水で終わるだろうし。
自分たちだからこそ出来るもの、
例えば継続的な訴えとかを選んだ方が よほどに実のあることなのだが、
いかんせん、学生という身では、声の大きさもそれを届かす範囲も限られていて。

 「遣る瀬ないでげすねぇ…。」
 「そうですよねぇ。」
 「………。(頷、頷)」

白百合さんの口調がついつい蓮っ葉になったのも、
決してふざけてのことじゃあない。
本当に本当に遣る瀬なくってたまらなかったからであり。
いっそのこと、例の…日頃の行動力とやら、
こういうときにこそ発揮したろうという方向でも、
可憐なおでことにぎり拳を突き合わせ、
えいえい・おーと 仕掛かったものの、

 『お出掛けでございますか、お嬢様。』
 『遠方でしたら、東雲がお車をお出し致します。』

その身を投じるべく、
ボランティア活動に出向くには…現場が遠すぎるし、
それより何より、見るからにタフネスさが危ぶまれるこの身では、
行ったところで却ってお邪魔にしかならぬのが目に見えており…と。

 「立ち上がったそばから
  大人が さささっと張りついてくる環境だってこと、
  うっかり忘れておりました。」

たまたま草野さんチでのおしゃべりだったから
そうとなった…とも言えない運び。
久蔵の家であっても似たような展開となっただろうし、
平八の場合も、実を言えば。
届け出しない遠出と運んだ場合、
カードや何やの使用歴から、
出掛けた先を後日にでも外務省関係筋からチェックされかねぬ。
何せ、その身内に米国要人がいる立場だけに、
テロリストからの誘拐候補にされかねぬとの把握をされてもいるらしく。

 “…大仰なんですよね、まったくもう。” (まあまあ…)

そこいらへのお出掛けなら、まま大目に見てもらえているし、
ちょっとしたお買い物だの羽伸ばしだのというお出掛けとは、
随分と鼻息が違ったの、あっさり拾われてもいたようで。
優しいお心掛けを制止はしない、むしろフォローも致しますが、
お嬢様がただけでという行動は、
その身を親御様からお預かりしている我ら、賛同しかねますという、
意向の滲み出たものだと、これまたあっさり判る以上。
駄々をこねても始まらないとの納得もあっさり導かれた、
思考回転のよさもまた、
前世の蓄積、大人の立場なら…が即座に浮かんだためであり。

 「お元気な十代ならば、それこそ大人を振っ切って行動するのかなぁ?」

今朝など、随分と涼しくて寒かったほどの半袖のセーラー服から伸びる、
嫋やかな腕での手振りも大きく、熱弁振るうお嬢様もいるようだと。
そんな率直さを どこかうらやましいと眺めやりつつ、ひなげしさんが呟けば、

 「これまでのアタシらならそうでしたが。」

こればかりは…問答無用と畳み掛けていい悪党退治と違って、
埃を立ててやることではありませんからねと。
困ったように眉を下げての、苦笑をこぼしたのが白百合さんで。
……いや、前者も“畳み掛けていい”ってことじゃないんだが。(苦笑)

 「……兵庫も。」

医師会公認とまでの組織立ったものじゃないが、
有志らで時折 回診カーを出して回ってたりするそうなので。
現地活動は大人に任せて、
お主らは学生の本分に励めと言うておったと。
ぽつぽつと語る紅ばらさんの、ちょっぴり萎えた肩に手をおき、

 「今日はその集まりがあるのでしょう?」

ゴロさんがね、このくらいしかお手伝いが出来んがと言いつつ、
それでも朝早くから起き出して、お茶受けの差し入れを頑張って作ってましたと、
平八が励ますように微笑って見せて。
どんな内的蓄積があろうと、今はまだ女子高生だという身をわきまえること、
今回は何とはなしに納得し合っておいでらしいお三方であり。

  「そのゴロさんが、
   今宵は兵庫さんや勘兵衛さんを集める予定になっているから、
   何か伝言とか差し入れとかあるなら渡しておくぞって。」

こそりと平八が付け足した一言もまた、
何も出来ぬとしょぼくれているお嬢さんたちなのへ、
大人の皆様が“そんなことはないない”と、
あなたたちからのエールは、何よりの力になるよと言わんばかりの。
向こうからのおねだりという格好で…逆に励ましてくれてるような、
そんな微妙な気遣いの香りもしないではないのだが。

  ―― そこまで裏を読んでちゃあキリがないですし。
     それより何より、
     ますます大人げがないってものでもありましょうから

拗ねてばかりいるよりも、
乗っかって差し上げるのも保護者孝行には違いないと。

 「じゃあ、ケーキでも焼いて差し入れにしてもらいましょうか。」
 「??」

ちょっこり持ち直したか、
すんなりした峰のお鼻、つんとわざとらしくも澄ましての立てて見せ、
くふんと微笑った七郎次の言いようへ。
こちらさんはちょっぴり驚いたか、
困惑気味に瞠目した久蔵が おややぁと小首を傾げ、

 「晩の集まりらしいのにケーキですか?」

平八も怪訝そうに片方のお目々を開いたけれど。
そこがせめてもの意趣返しですよぉと、
歌うような節つきで囁いた白百合さん。
お酒を酌み交わすと判っていながらの子供じみた真似をしてやって、
こっちだって好きで年少さんに生まれた訳じゃないですよ〜だと、
せいぜい主張してやりましょう…なんて言いながら。
ふふふと小さく微笑っての、
青玻璃の双眸を瞬かせた白百合さんこと七郎次だったのへ、

 「……。////// (頷、頷)」
 「そうですね。
  別段、苦手なものを押し付けるんじゃないんだし。」

ねぎらいたいには違いないところは曲げてないんだからと、
久蔵に引き続き、平八も大きく頷き、
じゃあじゃあ、今日は体育祭の打ち合わせもないことだし、
放課後に八百萬屋で、と。
すらすら話もまとまったお嬢様たちだったりし。

 「…でも、
  勘兵衛様も呼ぶってのは一体どういうつながりなんでしょね、
  ゴロさんたら。」

向こうの3人も…それなりの間隔をおいてだが、
結構 密に連絡を取り合うほど 仲がいいのは知っている。
とはいえ、職業に違いがあり過ぎて、
いくら夜中でも出掛けられる大人だと言っても、
そうそう時間が合うでなしと、
微妙に怪訝そうなお顔となった草野さんちのお嬢様へは。

 「何でも、その会合にちょっぴりお偉い格の警察OBがおいでだそうで。
  特に権高いお人じゃあないけど、だからこそ。
  勘兵衛さんがわざわざ、付き添いというか護衛というかを申し出て、
  半分職務という形の上で、ちゃっかりと久々の再会をなさるんだそうで。」

 「あ〜、何でゴロさんにはそういう話をしてるかなぁ。」

アタシだと“関係ないし”とか思うとでも思ったんだろか、
それとも、そこから昔の話とか、
あれこれ聞きほじられるのが面倒だったのかしらと。
既に2つも自分で思いついてる危惧のようなもの、

 “あの島田が…。”
 “気遣わないはずがないでしょが。”

仕事への辣腕ぶりはともかくとして、
気遣いだの心遣いだの、
他へは ごそぉっと抜け落ちてる感の強い、
立派に大雑把な男だというに。
七郎次への気遣いにだけは、
綿密繊細という方向でも何とか頑張って周到さを増す壮年だと。
周囲の者ほど気づいているものの、
肝心な当事者には、気づかせぬことこそが本旨だからか、
なかなか伝わりはしないとあって。

 「………。//////」
 「何ですよ、久蔵殿。」

甘えているやら宥めているやら、
ぽそりとおでこを白百合さんの肩へと乗っけたのが久蔵なら、

 「今日はシチさんが作りたいものを作りましょうね。」
 「? ありがとございます。?」

えっへんと張り切る平八だったのへも、
不意を突かれてのこと、
おやや?とキョトンとしちゃったマドンナ様だったりしたそうな。






      ◇◇



平日の昼間だということで、
それでなくともお堅い会合を主に受け付けている会館には、
病院の待ち合いでももっとにぎやかだぞと思うほどに、
お行儀のいい静けさが満ちており。
奥向きへと接している以外の壁のほとんどがガラス張りという、
こういう施設に多い、白々とした明るさの満ちたロビーホールでも。
待ち合わせか長椅子に座している人らも言葉少なだし、
行き来する人々は尚更のこと、さっさかと目的の階や部屋へと向かうばかり。

 「……お。」

そんな中へと足を運んだ、
作業ズボンにTシャツと前掛けという、ざっくりした姿の八百萬屋の店主殿。
横に平たい飯台に長い手提げの柄をつけたよな、
和菓子用の蓋つき岡持ちのようなのを提げ、
裏手の搬入口から踏み込んだロビーの一角に、
見慣れたお顔を見つけて、思わずのこと、足を止めている。
かっちりとした屈強ないい体躯は、
本来 堅苦しいはずなスーツを、
よれよれにして着慣らした末に身のほうへ合わせるでなくの、
颯爽という感もするほど、余裕をもっての隙なく着こなしており。
そういう職種か、いやそれにしては、
背中まで延ばされた蓬髪はどうだろか。
俳句や現代書道か何かを嗜む、趣味人か風流人かと、
判じものみたいな風体の壮年殿が、
もうちょっと年上らしき初老の御仁を送り出しているところ。
大きなガラス仕立てのスイングドアを開けて差し上げ、
表で待っていたらしき、部下の佐伯刑事へと隋臣役をリレーしつつ。
少々名残惜しげに見送り続ける彼であり。
気が済んだのか振り返ってきたところ、
こちらからの視線へも気づかれて、
会釈をしいしい歩み寄ってきたのが、
警視庁捜査一課が誇る、強行班主任の島田警部補殿であり。

 「あの方が?」
 「ああ、木田惣右衛門殿と言ってな。」
 「…もしやして、過去にもご縁が?」
 「何故判る?」

五郎兵衛からの意外な深読みへ意表を衝かれたか、
ついつい素直に正解を認めつつ訊いたれば、

 「佐伯殿も、どこか嬉しそうなお顔だったからな。」
 「さようか、それで。」

昔にもな、軍医をなさっておいでの老師として縁があっての。

 「それでシチさんへは言えなんだのか?」
 「…どうしたものかと、迷った。」

なので、五郎兵衛へと語っておき、
あとは自然に任せた…微妙に狡い彼だったらしくって。

 「叱られるのは覚悟しておけと、ヘイさんからメールがあったぞ。」
 「ウチもだ。」

思わぬ方向からの声がかかり、偉丈夫二人が おっと背後を振り返れば、
そこにはスーツ姿の外科医殿が立っておいで。

 「榊殿か、待たせたな。」
 「いや、さほどにはな。」

昼食に間に合ったのだから重畳と、
五郎兵衛へは口許をほころばせたものの、

 「久蔵が、シマダへクギを刺しておけと言って来たが。」

さすがにそれだけじゃあ意味が分からなんだ兵庫殿も、
ここでの彼らの会話から、なぁんだとやっと合点がいったらしい。

 「要領が悪いと聞いていたのは、こういう部分の話なのだな。」

あの周到な男のどこがと、なかなか理解が追い着かなんだが、

 「肝心な相手から、
  人性の部分で誤解されていては、何にもならぬだろうに。」

日頃、いいように振り回されがちの兵庫殿、
ここぞとばかりに辛辣な言いようをぶつければ、

 「まったくもって同感しきり。」
 「おいおい。」

五郎兵衛までもが同意を見せるものだから、
今日ばかりは変則での二人がかりの的にされ、
警部補殿が微妙にしょっぱそうなお顔になったそのときだ。


  「  …この場にいる奴ら全員、床に手をつけて体を伏せなっ!」


あまりに唐突が過ぎ、
出だしのほうで何を言ったのか、
うっかりと取り逃したほどの言いようだったが。
地味な姿の男が一人、
ロビーの中央に立っており。
そのまま長いものを両手で掲げ上げ、
天井へと先を向け、振り上げて見せたそれが、


  ――― がうんっ、と


耳障りな炸裂音を放って、天井の内装材を破砕したものだから。
テレビや映画などで見はしても、
実際にここまで間近な“現実”として接するのは初めてな人が多かろう、
ライフル銃での威嚇だと判った人々が。
悲鳴を上げて逃げ惑ったりその場にうずくまったりと、
恐慌状態に陥るまでに、わずかながらの間があったのは。
さすがに慣れというものがなかったことと、
銃声がしたら何をおいてもしゃがめという“常識”が
外国に比すれば皆無だったからではと、
のちの後日にもっともらしくも分析されたらしいけれど。


  「籠城犯か?」
  「こんなところをジャックするとは物好きな。」
  「銀行の社員寮へ来て、金を出せと言うよなものだぞ。」


   ………落ち着き過ぎだ、あんたたち。
(苦笑)





NEXT


  *惣右衛門様、苗字あったかなぁと確かめもせんと出ていただきました。
   向こうの島田一族の、須磨のお目付役とは別人物ですので悪しからず。

  *更新に間が空いたのは、
   週の頭に私用でバタバタがあったせいで集中しにくかったのと、
   これを、ああでもないこうでもないと いじっていたせいです。
   なぁんか、ややこしい事態になりそうですよ?
   しかも、いつもと違い過ぎる顔触れでvv
(う〜ん)


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